相続財産管理人については前項で詳しくご紹介しましたが、同様に被相続人の財産を管理する資格として「遺言執行者(いごんしっこうしゃ)」というものがあります。
※世間一般では「遺言=ゆいごん」と読みますが、民法上では「いごん」と定められています。
一見、似ている二つの職務ですが、仕事内容や権利の範囲は大きく異なります。被相続人がどちらを選択するかで、相続人や特別縁故者同士の揉め事を減らすことができます。
両者の役割を正しく知って、自身の遺言通りに相続が行われるにはどうすればよいかを考えるきっかけにして頂けると幸いです。
※相続財産管理人より執行権限と権利の範囲が大きくなります。必ず選任され
なければならないわけではありませんが、以下に挙げるケースの場合選任は
必要になります。
1)財産が500万円未満
2)財産が5,000万円の場合
3)財産が3億円の場合
※このように総資産によっても誰に依頼するかで報酬は変動します。また、例え
ば法定相続人同士の法的な争いが予見される場合は弁護士でなければ遺言を執
行できませんし、金融関係のトラブルがある場合は信託銀行であれば様々なサ
ービスがあります。
ご自身の財産、そして法定相続人に均等に分配する予定がない等の条件に応じ
て、遺言で遺言執行者を指定しておくとスムーズに手続きが進みます。
財産と相続人がいる場合、その管理をしてくれる相続財産管理人と遺言執行者を解説してきました。ここからは不動産にフォーカスをして、より具体的に相続財産管理人がどのように関わって来るのかを空き家対策特措法による代執行と比較して検討していきます。
隣家の住人が亡くなり空き家として放置されている。倒壊の危険があり、また犯罪の温床になるリスクをはらんでいるため、近隣の住民は対応をしてもらいたいと考えている。
①特措法による行政代執行をしてもらうには、事例の空き家が「特定空家」に認
定される必要があります。特定空家と認定される条件は自治体によっても変わ
ってくるため、明確ではありません。詳しくお知りになりたい方は以下をご覧
ください。
また、認定されても代執行には手順があり、数か月~1年以上はかかります。
②相続財産管理人を選任する方が早いのでおすすめ!とうたっている記事も散見
されますが、そうとも言い切れない部分があります。
まず、相続財産管理人ができる行為は保存行為と管理行為です。不動産売却や
処分などの「処分行為」は原則として認められていません。家裁から許可をも
らうことで初めて行うことができます。処分行為の許可が下りてから、不動産
の任意売却まで半年以上はかかります。
①相続財産管理人の申し立ては利害関係人しかできません。行政代執行であれば
特定空家に認定されれば動くことができますが、隣家の住人というだけでは利
害関係者とはいえません。
②相続財産管理人の申立てを行う場合、申立に際して相続財産管理人の報酬とな
る予納金を数十万円~100万円程度を相場に納めなければなりません。隣家
の住人に支払い能力があるか、また支払ってでも相続財産管理人の選任を申立
てる気持ちがあるかどうかが問題になります。
これに対する奥の手として、被相続人が固定資産税等を滞納している場合、債
権者となる市区町村が利害関係人になるので、申立てを自治体に依頼する方法
もあります。