【“空き家”がお年寄りとこどもをつなぐ地域のふれあいの場に】空き家を自治体に寄付した宝塚市・野口さんの事例

(後列左から南口自治会の井上さん、高島さん、土佐さん、川勝さん。中央が元・所有者の野口さん)

兵庫県の阪急宝塚南口駅から徒歩5分にある「南口望月ハウス」は、地域コミュニティの交流の場として地元の人に愛されている。

もともとは居住者のいなくなった空き家だったが、所有者により市に寄付され、利活用されるようになったという経緯をもつ。

空き家活用の新たな形を体現する望月ハウスについて、市への寄付を決めた元・所有者の野口さんと、望月ハウスを管理・運営している南口自治会の皆さんに話をうかがった。

目次

別々のサークルだった高齢者と子どものかけはしに

——「望月ハウス」は空き家が地域社会で利活用されている点で、理想的な形だと感じています。

——具体的には現在、どういった活動に使われているんですか?

自治会・高島さん 毎月1回、「お庭カフェ」という名前で、望月ハウスの庭の畑や地場で獲れた野菜を使ったランチを食べていただけるイベントをやっています。

自治会・川勝さん 定員40名でやらせてもらってるんですが、いつも予約が定員をオーバーして、キャンセル待ちになるぐらい人気なんですよ。

もともとはJOYJOYクラブという高齢者サークルと、プチふぁみクラブという0歳児からの親子サークルが望月ハウスで別々に活動していたんですが、顔を合わせるうちにお互いが声をかけ合うようになって。

「一緒になにかできないかな」っていう話になって生まれたのが、お庭カフェなんです。

——望月ハウスを通じて、お年寄り世代と若いお母さん世代、子どもとつながったのですね。

川勝さん はい、お年寄りが子どもの相手をしてくれたり、みんなそれぞれが楽しんでいます。

それも、望月ハウスが“普通のお家”だからこそ、いまみたいな活動ができると思っていて。

机とパイプ椅子が並べ置いてあるような公共の施設とは違って、赤ちゃんのおむつを替えたり、お昼寝をさせたりというのが気兼ねなくできる居心地の良さが、望月ハウスの魅力だと思います。

毎月、趣向を凝らしたメニューで好評を博しているお庭カフェ

市への寄付のきっかけは夫の一言

——野口さんがご実家を市に寄付をしようと決められたのは、どういった経緯だったんですか?

野口さん 私が20代の半ばに上京してからずっと、ここには両親がふたりで住んでいたのですが、父が入院している時に母が急に亡くなってしまったんですね。

私はひとりっ子だったので、母の葬儀が終わって、さあこの家をどうしようかと途方にくれていたんです。そんな時に主人がポロっと「市に寄付したらどうかな」と言いました。

主人の実家は農業をしていたのですが、そちらを相続した時に主人自身がだいぶ苦労した経験から出た言葉だったようです。

——ご主人が空き家の売却に苦労された経験から、そういった提案をされたんですね。

はい、私も「それはとてもいいな」と思って、迷わず市への寄付を決めました。

家を残して維持のために定期的に通うとか、建て壊して駐車場にして、とかそういったことよりも、市の方で利活用してもらえればその方がよっぽどいい、と思ったんです。

それで、市役所の方に来ていただいて、「できれば建物は残してそのまま使っていただければ」ということで寄付の意向を伝えました。

公共施設としての基準が利活用のネックに

——市への寄付はスムーズに進まれたのでしょうか?

野口さん 更地にしなければ受け取ってもらえないのかな、とも心配していたんですが、市の方からは「コミュニティ・センターとして使えるかもしれない」と言っていただけました。

では喜んで、となったのですが、実際は市のコミュニティ・センターとして建物を使うには耐震構造とかいろいろな基準を満たさないといけなくて、寄付はしたものの活用されない、という状態が長く続いたんです。

——では、どういう経緯で南口自治会の方で利活用されるようになったのでしょうか?

南口自治会長・井上さん もともとこのあたりには自治会館とか、住民が集まれるような施設がまったく無くて、私たちは以前から市役所の方にずっとかけあっていたんです。

そういう時に、野口さんが寄付されたお家のことを耳にして、これは願ってもないお話だと。

それで、すぐに自治会の役員みんなで市役所につめかけて(笑)

「私たちに使わせてください」って直談判したんですが、すぐにはOKが出ませんでした。

——行政はどうしても制約が多くあるため、簡単には話が進まない面がありますね。

——地道に協議を重ねていかれたんですね。

川勝さん はい、2、3年ぐらい、それこそ日参して。ようやく「自治会の方で管理・運営するならば使っていい」ということになったんです。

たとえば建物の修繕とか、自治会費や社会福祉協議会からの助成金で賄えるよう、知り合いの伝手でできるだけ安くやっていただけるようお願いしたり、いろいろ苦労はあります。

でも自分たちでやっている分、規則でがんじがらめにならずにいろいろなことができるのかな、と思っています。

<次ページ:思い出の詰まった生家で、新たに紡がれていく>

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この記事を書いた人

元月刊誌編集者・元プロキックボクサーのフリーライター。コロナ禍を機に飼い始めた猫に夢中です。

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