住むためではない 街に居場所と人を増やして行くための空き家活用とは

目次

 空き家を選ぶ際のポイント、そしてDIYで注意すべきこととは

リノベーションするために、空き家を選ぶ際のポイントなどはありますか?

永田 僕としては、値段と広さがポイントです。 
選ぶ際には、あまり見た目は気にしていません。結局自分で改修工事をするので。

僕は結局のところ、空き家のリノベーションを建築の延長でやっています。だから、あくまでも手をいれるのを前提で借りているのです。
なのでなるべく、壊しがいのある物件の方がいいですね。

依頼を受けて空き家リノベーションの相談にのっていると、「綺麗じゃない」とか「汚れている」ということを気にする人がいます。そうした視点で見ていると、空き家のダメなところしか見えないと思うのです。

しかし、自分で壊して作り変えることを前提で、手のいれようのある物件を探そうと思えば、今まで見えなかった面白い物件がいっぱい見えてきます。

ここ『野毛山Kiez』も、最初は1棟5万円の賃料だったんです。
戸部駅前という好立地ではありましたが、まあまあボロボロでシロアリもいました。
それでも5万くらいの賃料負担だったら、自由に遊べて適当なタイミングでやめられる気楽な賃料といえます。
それに先ほども言いました通り、アトリエとして使いたかったので、汚れていい環境というのも重要でした。

以前ストリップの劇場を改装して『旧劇場』というシェアスタジオをつくったのですが、この考えがなかったらストリップの劇場なんて借りられなかったでしょう。
さらに言いますと、その場所にある汚れなどにストーリーがあるからこそ、空き家は面白い場所となります。
『旧劇場』をリノベーション作業している時に、ふらっと元お客さんが来たり、元踊り子の女の子が訪ねてきたりしたこともありました。
中古物件を借りると「なんでこんなところに棚がついているんだろう」と思うことっていっぱいあるじゃないですか。
それって、新しく来た人がみるとただのいらないものですが、住んでいた人に「この棚は、私が子供をかかえるからここに棚が必要だからつけたのよ」なんていうストーリーを聞くと、急に愛着が湧いてくる。
通常は原状回復してしまうので、新しくして引き渡すと、もうそこは以前ここに住んでいた人が入りにくい場所になってしまいます。

原状のまま引き渡すことで、この場所が持っている歴史というものを活かしてリノベーションをしていき、昔の住民とつながったときは本当に胸が熱くなる思いでした。
だから空き家を選ぶ時は、そこにある歴史ごと見るつもりで選ぶと、汚さや残っている残置物なんかも魅力になると思います。

ストリップの劇場は、最初に下見に行った時は少しおどろおどろしくて……。部屋の中にまだ畳とか洋服とか残っているままでしたし、正直怖かったです(笑)。

しかし、そこにいた人や直接働いていた人に会って話とかを聞くと、それらがけっこう愛しくなってくる。

このストリップの劇場リノベーションは、中古物件の残っているものに対する考え方とか印象が変わったきっかけでした。ですので、こうした新しい場所をつくるために空き家を探すのであれば、賃料と広さ、そしてストーリーを見るのがポイントだと思います。

永田さんが行ったような空き家のリノベーションは、素人の人でもやることは可能ですか?

永田 今はYouTubeや本などで調べることもできますし、道具も揃いやすいのでやることは可能だと思います。
ただ、ネットなどにあげられているDIYの方法の中には、その場にいる人がOKしたからノリでやってしまっているという危なげなものもあるので注意が必要です。

だからこそ、ある程度専門性が必要なところは大工さんなどに任せた方がいいと思います。
自分たちでやりやすい箇所としては、天井をはがしたり壁を貼り替えたり、塗装をしたりというところでしょうか。

この『野毛山Kiez』も土台が腐っていたので、そこは大工さんに入ってもらいました。
やはり、建物なのである程度『勘所』というものはあります。壊していけないところを壊してしまっては大変ですから。
DIYが普及しているからこそ、大工さんと組むことも大切だと思うのです。
ですから、物件を買う時に大工さんに一緒にみてもらうのもいいと思います。

ただ昔は近所に、ちょっとした改築などを相談できる大工さんがいたのですが、今は少なくなっていて・・・・・・。
そんな時代だから、僕はこうやって街の中に自分の事務所を開くことを大切にしていいます。建築家というのはこういう時こそ、相談できる存在になった方がいいじゃないかって思うからです。

建築家というと、依頼するのは高いし頼みづらいという感じですよね。それよりも、ちょっと近所で相談できる存在になることが大事だと思います。

街中にいて、いつでも気軽に相談できる建築家

ーなんでも気軽に聞ける、ご近所さんの建築家というのは新しいですね。永田さんの思い描く建築家というのは、具体的にはどういうものなのでしょうか。

永田 建築家はいわゆる家の企画やデザインももちろんなのですが、建築を通して「これについてはこういう人がいる」「こういう場所がここには必要と、必要なところと必要な人をつなぐことが、ひとつの力だと思います。

シェアキッチンやシェアオフィスをやると、そういう街のプレイヤーが見えるので、「あ、こういうのについてはこの人に聞こう。これはこっちの人に聞こう」というのが広がっていくのです。

空き家の使い方としても、ただ住むためだけの家というのはすでに供給過多なので、違う形で空き家を活用できるよって発信するのも建築家の仕事かなと。

例えば、集中するための場所であったり、友達と集まるための場所だったり、自分が活躍できる場所であったり…その地域で実際に暮らし、そこに暮らす人達や場所を見つめて、必要な場所を作っていくというのがのが僕の思い描く建築家の役割です。

新たな場所をつくり、人を呼ぶ。
空き家を活用した豊かになるための拠点作り

今後さらにこの野毛山という地でやってみたいことはありますか?

永田 現在僕はこの横浜と長野の立科というところで2拠点居住をしているのですが、軸としては両軸で、どちらも「自分が暮らす場所にかかわること」をモットーにしています。

僕らは皆、どこかの地域に暮らしていて、そこでの暮らしが成立する為に多くの人の関わりが背景に存在しています。全ての人は地域によって生かされていて、同時に隣の家の人が生きるための地域の構成要素にもなっているんです。それは建築家という職業を選んだ人間も同じです。ならば、建築家という存在はもっと地域を活かす役割を担えるはず。日々暮らす地域の声を聞き、地域全体をクライアントとして捉え、あったら良いと思う場所をどんどん作っていくのが大切だと思います。

ですので、この野毛山でも暮らしている人の視点を大切にしながら、街に必要なものを作っていきたいと思います。  

最後に、今後企画していることなどありましたらお聞かせください。

永田 今後は自分とかかわる拠点同士、横浜と長野でお互い発信できるといいなと思っています。

長野でも空き家を借りて改修しているのですが、奥さんが長野に引っ越して地元の食材をつかったお菓子のお店をやりたいと言っているんです。

そういったお菓子を通して仕事として横浜へ出張にいったり、逆に横浜の商店街にちなんだ仕事で長野に出張したりするなど、自分が両方で暮らすからこそ関係性やお互いのいろいろな動きが絡まっていけばいいなと。 

長野と横浜を行き来していると話すと、そんなに遠いところ…と言われることがあるのですが、僕は個人によって感じる距離の感じ方は違うと思っています。

それを「パーソナルディスタンス」と呼んでいるのですが、街中を自分の家だと思えばふらっと出かけるのは気軽ですし、海外によく行く人は海外を近いと感じますよね。

長野も同じです。僕が近いと思っているから簡単に行き来ができます。
みんなが近いと思っている場所で、その場所のために動いたり繋がったりしていけば、人はもっと豊かになるのではないかと思うのです。
みんなが動けば、アイデアも生まれますし。

今後は、この藤棚デパートメントのような地域のコミュニティスペースとなる場所を作り、ある程度運営が滞りなくいくところまで場所を温めて、その場所を新しい人に引き継いでいけたらと思います。

どんどん新しい人を街へ呼び込んで暮らしてもらうことで、新しい場所が生まれる。
今後も、街で新しく活動する人なんかを引っ張ってあげるようなことをやっていきたいと思っています。

現在僕は南太田に新しくつくった『南太田ブランチ』に横浜での居を構えていて『藤棚のアパートメント』には外から引っ張ってきた夫婦が暮らしています。、彼らはゆくゆくは『藤棚のアパートメント』で陶芸教室や、プロデュースしながらカフェをやりたいと話していました。
このような人を呼ぶための場づくりに、空き家というのは使いやすいのです。

住む場所ではなく、街に住んでいてほしいと思えるような場所、自分にとっての拠点を是非空き家を活用して作ってみて下さい。

そうすれば、より豊かな暮らしになると思います。

* * *

永田 賢一郎(ながた けんいちろう) プロフィール

東京都出身
横浜国立大学大学院/建築都市スクールY-GSA修了
2013年より設計ユニットIVolli architectureとして活動の後、2018年よりYONG architecture studioとして活動を開始。2014年よりシェアスタジオ〈旧劇場〉や設計事務所兼シェアキッチンの〈藤棚デパートメント〉、〈野毛山Kiez〉、〈南太田ブランチ〉など自身の活動の場を地域拠点化していく活動をライフワークとして展開。2020年より長野県北佐久郡立科町地域おこし協力隊兼任、横浜と長野の2拠点での活動を始める

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この記事を書いた人

雑誌編集を経て、現在はフリーの編集ライターに。空き家や外壁塗装など家周りのライティングが得意。「家の間取」を眺めていれば、ごはん三杯までいけます。

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