現在、日本全国には800万戸以上もの空き家が存在するといわれています。地域貢献と収益化、双方のニーズを満たす空き家の活用方法としては、不動産活用が思い浮かぶのではないでしょうか。
空き家にリノベーションを施し、人を増やすことで、街を蘇らせる効果も見込める「不動産活用」。不動産事業の構想を進める材料として、空き家活用の地域選定、ポイントや注意点も把握しておきたいものです。
今回は地方かつ駅前に視点をおき、それぞれの空き家の現状から見える、不動産活用成功のポイントと今後の方向性について考察していきます。
不動産活用の前に。地方それぞれの空き家事情。
不動産活用を考える場合は、地方それぞれの地域特性や、空き家になった事情を把握しておくことが大切です。それは、活用した”空き家”を再び”空き家”にしない為の、今後の対策にも役立てることができます。まずは、駅前・地方の空き家事情からみていきましょう。
不動産活用可能な地方、駅前の空き家事情
空き家の不動産活用を考えるうえで、まずは、活用できる空き家の総数を把握しておきましょう。平成26年度に国土交通省が行っている空き家実態調査では、全国820万戸ある空き家のうち、活用可能な空き家は約48万戸となっています。
活用可能な約48万戸には条件があり、「駅から1キロ以内で、簡易な手入れにより活用可能な空き家」となっています。簡単な手入れにより活用できる空き家は、腐朽や破損のない空き家と定義されており、大規模なリノベーションや改築などが必要ない物件ということなのです。
市街地・地方に関わらず駅から1キロ以内であれば、不動産活用に適した立地であることは明確です。初期投資も抑さえられることも予想できる為、不動産活用を始める際には「駅から1キロ以内で、簡易な手入れにより活用可能な空き家」を利用すると、事業開始のハードルや開始後のリスクを大きく下げることができるでしょう。
共通する空き家が増える理由
1、活用ノウハウや具体的なTodoがわからない
駅前と地方に共通する空き家増加の理由としては、活用や運用方法が分からない所有者が多いケースがみられます。活用するノウハウもなければ、譲る方法も分からないという所有者がほとんど。
同空き家実態調査でも、「特に困っていない」「解体費用をかけたくない」「いつか誰かが使うかも」が全て30%を越える調査結果となっているのです。
また、財産として親族間で相続に関する協議が長引く場合も多く、長引く協議が原因で放置されている場合も少なくありません。もちろん、所有していればメンテナンスの他、固定資産税の支払いも必要です。メンテナンスの手間を省くため更地にすれば、減税制度である「住居用地特例」からはずれ、更地にする前の約6倍もの税金に戻ってしまうのです。
活用方法の知見がなく、税制度の兼合いから安易に更地にできない点が、空き家が増える理由の一つとなっています。
2、空き家である判別がつきにくい
駅前という好立地でも空き家になる代表的な理由は、空き家である判別がつきにくいことです。
誰が所有しているか、利用計画が決まっているかだけでなく、完全に空き家である確証がとれないケースも少なくありません。その場合は、必然的に誰もアプローチしない物件となり、空き家のままで存在し続けるのです。
また、駅前であれば既に企業絡みの事業で、買い上げられているケースもあります。企業購入の場合は所有者を確認すれば判別可能ですが、不動産活用予定の空き家が、放置されている場合は注意が必要です。
3、活用やメンテナンスできていない「譲り受けた側」
地方の場合は都市部に比べ高齢者の割合も多い為、ほとんどの場合は、相続で譲り受けた人物が活用できていないことが理由です。所有者の息子世代は都市部で働いていることが多く、自宅も都市部に構えていることも少なくありません。その為、空き家を地方に所有していても、メンテナンスすらできない場合も多いのです。
メンテナンスもできないので、活用方法を画策する時間がさらに取れないのが現状です。また、地方出身者は、田舎特有の魅力を客観視できない場合も多く、空き家によって収益を得る発想を持つ人は、ほとんどいないのが実態です。
また、空き家活用を実行に移す際も、地域や親族の協力が得られず、空き家のままになる場合もあります。平穏でゆったりとした生活は、田舎の方の多くが好む生活スタイル。移住者や利用者に生活を乱されるのを嫌う方が、反対するケースも少なくないのです。
空き家による不動産活用を計画する際は、地域の理解や協力も必要な要素といえるでしょう。
地方、駅前。空き家それぞれの不動産利用メリット
ここからは、駅前と地方の空き家、利用する場合のそれぞれのメリットをまとめていきます。事業の方向性やスタイルにあわせ、選定することもできるでしょう。
地方でも人口密度が高い
駅前は地方といえど、人口密度が高く、アクセスが良いのが一番のメリットです。利用者が必然的に多くなる為、住宅用不動産としても商業用不動産としても、集客に関して優位性が高いといえます。また、告知などで周辺施設との連携もしやすく、地域が限られていることで、空き家活用の複数事業展開も効率的に進めることができます。
地方事業拠点としても活用可能
また、自社事業拠点が市街地にあれば、当然ですがアクセスも容易で移動コストも少なくなります。必然的に横展開もしやすくなりますので、事業スピードの向上も期待できるでしょう。
地方とはいえ、場所によっては安定したニーズが得られる場合もあります。住宅供給が少ない地方ではライバルも少ない為、地域選定を丁寧に行えば収益化しやすいケースもあるのです。イメージに囚われず、現状を客観視することが大切といえるのかもしれません。
コストの削減
地方の空き家を不動産活用する場合のメリットは、空き家自体のコストが抑えられることです。活用方法も分からず、利用価値を見出せない住人の多い地方では、無料で物件を譲ることも少なくありません。そして、物件や地価の変動も市街地に比べ穏やかである為、活用できなかった場合のリスクもかなり低くなります。
現在の空き家活用状況と今後の見通し
今後の空き家活用のイメージを膨らませる為に、現在実施されている活用アイデアを整理しておきましょう。また、今後の空き家活用で注意しておきたい視点についても考察していきます。
現在行われている、空き家活用方法
国や行政による空き家活用に対する支援も増え、現在では空き家を活用した様々な事業が展開されています。具体的には、以下のような活用方法があります。
- 住宅用
- 飲食店、店舗利用
- 民泊、B&B
- コミュニティー活用
- 企業誘致、、、
住宅用や店舗利用、民泊など
多くの事例のある代表的な空き家活用方法です。特に地域選定とプロモーションが重要で、地域選定を誤れば、リノベーションした綺麗な物件が、そのまま空き家であり続ける場合もあるので、丁寧なリサーチが必要です。
地域や特定団体のコミュニティー利用やオフィス利用の場合
利用者がメリットを感じる地域であれば、一般的に「僻地」といわれる地域でも活用できる特徴があります。
地方で積極的に行われ始めたベンチャー企業のオフィス利用誘致や、アーティストやフリーランス向けのシェアオフィス活用は、まさに場所の価値を最大限に引き出した、空き家の活用事例といえるでしょう。
活用状況から見て気にしておきたいこと。
比較的安定的な収益を確保する観点からみると、住宅利用と民泊利用は特にリサーチが必要です。
民泊利用の場合
地域によって条例が整備され、最大稼働日数が制限されている場合もあります。その為、事業として運用する場合は、複数の物件を管理する必要があり、クリーニングや人件費なども見込みを立てておく必要があります。
住宅利用の場合
利用者のニーズが得られることがポイントとなります。地域に魅力がなければ、ニーズが得られないのは当然ですが、市街地などの駅前ではライバルも多く、安定的に入居者を得るのは難易度も高いものです。
その為、新築物件も多く建設され、住宅が飽和状態となっている駅前地域では、住宅用以外の活用の方が安定的な収益は得やすいでしょう。例えばカフェや雑貨店などの店舗利用、シェアオフィスや小規模企業向けのオフィス利用など。柔軟で新しい空き家の活用方法も、利用者に求められ始めているといえます。