【手つかずの”空き地”を地域住民と定住外国人との交流の場に】神戸市の多文化共生ガーデン/まちづくりコンサルタント・角野さんの事例

1995年1月に発生した阪神・淡路大震災で被災し、手つかずになっていた“空き地”を地域住民や定住外国人が交流する場として再生しよう!

こんな取り組みが神戸市長田区駒ヶ林町で始まっている。

題して「多文化共生ガーデン」プロジェクト。

主催するのは任意団体の新長田多文化共生ガーデン友の会だ。2020年2月にはワークショップとして“草むしり”イベントを実施、順次敷地の整備なども始まった。

折しもコロナ禍だが、パクチーや空心菜など、外国料理に欠かせないハーブ野菜の栽培などを通じた“地域の交流”が広がりをみせている。

このプロジェクトにかかわってきた一級建築士でまちづくりコンサルタントでもある角野史和さんに、ねらいや課題、展望など聞いた。

多文化共生ガーデンでは、ボランティアが活躍しています。みなさんの楽しそうな様子がみえます。
目次

 ――参画されたきっかけを教えてください。

 角野さん わたしは18年ぐらい前から、地域密着でまちづくり活動の支援などを続けてきました。その中で、地元のコミュニティーFMラジオ局「FMわぃわぃ」の総合プロデューサー、金千秋さんとお会いしたことがきっかけです。

 金さんは震災をきっかけに、定住外国人への情報提供や支援の必要性を感じ、彼らと地域住民の交流を促してきました。

 ある時、金さんの知人のベトナム人が市営住宅の花壇で野菜を栽培して注意されたと知らされたそうです。隣の高齢者が花を育てているのになぜ自分はいけないのか悩んだりしたといいます。

これは、ルールや慣習などの情報が共有されていないために起きることだと思い知ったそうです。

 そうした定住外国人と地域住民の交流が増えれば、お互いの理解も深まり、ルールや慣習も理解しやすくなるはずです。

 一方で、駒ヶ林エリアには、震災で被災したことでできた空き地がモザイクのように点在しています。再建築できないところも多くあります。そうした空き地を活用すれば、様々な社会課題が解決できると思いました。

わたしは、そういった地域における社会課題の解決をミッションに活動しているので、このプロジェクトをお手伝いすることにしました。

2016年になると神戸市が新たな空き家空き地対策として、活用も含めた対策に乗り出しました。補助金なども活用できるようになり、プロジェクト実現に向けた素地が整いました。

当時の空き地の様子

 ――この“空き地”を選んだのはなぜですか?

 角野さん お誘いがあり、地域のふれあい喫茶へお邪魔することがあります。その時「空き地で困っている方はいませんか?」という問いかけをし、所有者の方に出会いました。

現地は、震災による被害で建物を解体。それ以来手つかずで、所有者の方が年に2~3回草取りに来ていました。

しかし、高齢でもあり大変そうでしたので「多文化共生ガーデン」のお話を持ちかけたところ、非常に助かるということでこの地に決まりました。

実はこの他に3~4件の候補がありましたが、自治会の理解が得られなかったり、所有者をつきとめられなかったり、結局は土地探しに1年以上かかり相当苦労しましたね。

 ――場所が決まっても、実際にプロジェクトを進める上では注意しないといけないことが多そうですね。

 角野さん 地域の自治会との調整は重要です。そもそも交流を目的としたプロジェクトではありますが、現地は高齢者も多く、定住外国人に対する理解が必ずしも高いわけではありません。

そういう環境下で、空き地を突如違う形で活用するとなると軋轢を生みかねないです。自治会の協力、あるいは理解をどう取り付けるか。これは非常に大きなテーマと言えます。

 今回のプロジェクトでも、あらかじめ地元の自治会へ相談し、イベントなどを催しながら理解を深める努力をしました。

そこで作業する外国人のみなさんにも、近隣の人たちに対してあいさつをするように促したり、イベントも子供参加のものにするなど地域になじむ努力を続けました。

「多文化共生ガーデン」で収穫したハーブ野菜を近隣住民におすそわけしたりもしています。

 まあ、近所で突然人が集まって何かをやっていると、だれしも違和感をいだきますよね。突然なにかをはじめると、地域ではハレーションが起きがちです。そういったことがないように注意しました。

自治会や地域住民を巻き込み、顔を合わせたコミュニケーションを如何につくるめるかが成功のカギを握っているともいえます。

 加えて、所有者をはじめとする権利の問題もあります。たとえば、一部の権利者がはっきりしない、あるいは、はっきりしてもその所在がわからない、ということは手つかずになった空き家・空き地にはよくあります。

活用や適正管理に結びつけるためには、根幹に潜む権利関係の課題を解きほぐすことも大事だと思います。

空き家空き地問題は、地域住民の協力や理解を仰ぎつつ、個人や家族で権利関係の問題に向き合う事が大事です。

その結果地域にとっても個人にとっても良い環境となることが理想的だと思います。

多文化共生ガーデンのワークショップチラシ。楽しそうな企画が盛りだくさん。

 ――今後の展開をどう考えていますか?

 今後も空き家や空き地などで困っている人に解決策を提案していきたいと思います。震災を機にできた空き地でも、パクチーや空心菜などいろいろなものが育つことが分かりました。

今年はコロナ禍の影響で収穫祭などのイベントが十分できませんでしたが、年に何回も収穫できました。それこそ五毛作ぐらいできた感じです。

 その経験もあり、こつこつ菜園を増やしていきたいと思います。小さな空き地でもいいと思います。市民農園のような使い方ができれば、交流も増えます。この動きの中で社会課題としての“空き地”が活用できたらいいのではないか、と。

みんなで整備した畑にはたくさんの作物が育っている

<次ページ:取り組みを通じて感じられたこと>

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この記事を書いた人

フジサンケイビジネスアイ編集委員。1990年に日本工業新聞社(フジサンケイビジネスアイ)入社。以来、日本工業新聞や産経新聞、フジサンケイビジネスアイなどで経済、産業報道に携わってきた。

コーポレート・ガバナンス(企業統治)など企業経営関連、エネルギーや食料問題などの危機管理などが得意分野。

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