宿泊施設を効率的に運用するための具体的施策
宿泊施設の運営経験がなかった上野さんですが、千山庵の運営はどのように行ったのでしょうか。
ここでは、上野さんが実際に行なった具体的な施策をご紹介します。
複数の集客導線を導入
上野さんはEC販売での経験から、最初は自社で予約を取らずに民泊予約サイトの「Vrbo(バーボ)」(元HomeAway)からの予約のみとしました。
ホームアウェイからの予約だけでは全体を埋めるほどには至らなかったため、ハイグレードホテル・旅館予約サイト「一休」へ出店。集客に勢いがついて来たのを実感し、「ブッキングドットコム」、「楽天トラベル」、「Airbnb(エアビーアンドビー」も併せて利用を開始します。
1つの販路にこだわらず、有効と判断したものは取り入れていくことで集客は順調に増えていきました。
ブランディングを重視した収益化施策
上野さんは千山庵をスタートした当初、宿泊費を下げて稼働率を上げようと考えました。しかし実施してみるとスタッフが疲弊してしまったため、「ブランドの価値を出す」方針に切り替えます。稼働率が低くても利益を出すため、ブランディングを重要視したのです。
WEBサイトは初見で魅力が伝わるよう、使用する画像の撮影をプロのカメラマンに依頼。IT系の経験者の社員に協力を仰ぎ、「興味を持ってくれた人がすぐに詳細を確認でき、予約までたどり着ける」美しいサイトを制作しました。
この経緯からは、素早い損切り判断と柔軟な方向転換が収益化につながるポイントだとわかります。
空き家をホテル・宿泊施設として成功させるおける3つの要素
上野さんのお話からは、空き家ビジネスの成功には3つの特筆すべき要素があることが見えてきました。
1:地場産業の活性化における官公庁との連携
地場産業の活性化はそのまま地域振興につながることから、行政は空き家ビジネスに協力的であり、後押しする姿勢を見せています。上野さんは官公庁と連携することで、下記のような好条件で空き家ビジネスを開始できました。
- 物件はもともとが官公庁が保持している物件
- 地域復興のプロジェクトで採択され、アドバイスやサポートを得られた
- リフォームでは地域の補助金を活用し、支出を抑えられた
空き家ビジネスの成功には、官公庁の協力を得るなどして、好条件でビジネスを開始できるチャンスを見逃さないことが重要であると言えます。
2:地域の資産を活用
上野さんは人口の少ない湯浅町でも光る資産を見つけだし、磨き、活用することで全国レベルで人気となる商品を作り出しました。
そのルーツはみかんのEC販売で得た「唯一無二であり、顧客目線で見たときに優れた”強み”を発信する」というマーケティングにあるのではないでしょうか。自社の強みを生かす、いわゆる3C分析という思考フレームの実施に近いものです。
3C分析とは
- 市場・顧客(Customer)
- 競合(Competitor)
- 自社(Company)
の3つを分析し、それぞれの特徴を深く知ったり、他の要素と比較したりして成功要因を探るものです。
3C分析に当てはめると上野さんの実践したことは、
①市場、顧客のニーズ(高くても良い体験をしたい、古民家を貸し切るという特別な体験をしたい)というニーズを満たし、
②③文化的に希少な物件を磨き上げ、競合を上回る魅力を提供した
ということになります。
3C分析は感情的や思い込みを捨て、「現状」と「これからできること」に的を絞って分析することが重要です。
悪い例:
×「うちには強みなんてない」
×「競合の◯◯には負けていないはずだ」
×「お客さんはこれを求めているに違いない」
3C分析から課題を発見したり、有利な動き方を見つけてみましょう。
3:デジタルトランスフォーメーション
また、千山庵の成功の陰にはデジタルのビジネスモデルを積極的な活用も潜んでいます。
千山庵では、いわゆるデジタルトランスフォーメーションの考え方(デジタル技術を浸透させることで人々の生活をより良いものへと変革すること)を取り入れ、複数プラットフォームからの予約システムを導入しました。
これはネットショップを複数展開する企業と同様の集客方法で、今利用できる技術を活用し、消費者目線に立ってそれぞれ予約しやすい媒体から予約してもらうという取り組みです。
単に予約システムを利用するだけなら、デジタルトランスフォーメーションとは言えず、「予約方法がデジタル化した」だけに留まります。しかし、その先にある消費者の利便性におけるニーズに応えたことで、集客につながったと言えるでしょう。