連載#1|畑が出現!シャッター商店街の未来像をつくる、神戸市の当事者意識

連載:神戸市灘中央市場『いちばたけ』インタビュー

8つの商店街と4つの市場がある神戸市の水道筋界隈、大きなショッピングモールには無い〈生活に密着した気さくな雰囲気〉が魅力。なかでも大正14年にできた灘中央市場は、一歩足を踏み入れると昭和にタイムスリップしたような雰囲気。このエリアに2年ほど前の2019年春、空き店舗の跡地を活用してつくられたのが、なんと「畑」。その名も、市場の畑だから『いちばたけ』。全国的にもユニークなこの空き地活用の取組み。まずはその現状について、弊社代表・和田貴充が伺いました。

このユニークな取り組みの登場人物は、神戸市職員で、まちづくりを担当していた佐藤直雅さんと、農業を担当していた丸山公也さんのアイデアに端を発し、ふたりで「チームカルタス」を結成。同地域でコミュニティづくりに携わっていた坂本友里恵さんも合流して日常の管理や運営、企画を進められてきました。みなさんにお話を伺いました。

* * *

このおいしい焼き鳥が10年先も残っているか……

市場内の精肉店の美味しい焼き鳥をいただきながら──

和田 市場の店舗数は今どれくらいですか?

坂本 戸数だと80くらい、実店舗だと30もないですね。 

和田 つまりそれ以外は全部空き家か、人は住んでいるけど営業はしていないということですね。年々減っているんでしょうね。

坂本 はい。つまり10年後、このおいしい焼き鳥が残っているかどうか、分からないってことです。

和田 空き家対策では「事業承継」も重要なんです。どんな仕事でも世の中にやりたい人がいるはずで、そういう人を呼んで来ることができれば、空き家になるのを防ぐことが出来ますから。

佐藤 でも、実の子に継がせたいと思えない現状なのに、なおさら他の人には……という感じなんですよね。

和田 今までのお金を儲けることが最優先の価値観では“鶏肉屋は儲からない、だから続けられない”ということになるんですが、それは前時代的な考えです。

時代は変わっていて、今の若い子達の間には社会課題解決のために仕事をするという考え方が増えています。

だから市場を活性化させたいという大義と、社会のために生きがいを持って働きたいという大義をうまく結びつけることができれば、やりたい人は出てくると思いますよ。

坂本 かつて、チャレンジショップのような形で空き店舗に人を呼ぶような活動もしていたのですが、市場の人たちには受け入れられませんでした。

空き店舗を埋めたいのは山々だけれど「そうじゃない」って。 

和田 内発的な発信が必要なんですよ 市場の人達自身がどういう町になってほしいのか。 親は子どもの苦労を思って店を継がせたくないと思っているかもしれないけど、案外子どもは平気だったりする。

親の背中を見て育っていますからね。そういう子の世代がこの商店街をどう見ているか、どうしていきたいか。

親の前では言えないかもしれないから、チームカルタスがその思いを吸い上げて、各商店にトスアップしてあげれば、何かが変わると思うんですよね。

地元の人が本当に魅力を感じる空き家活用とは?

* * *

佐藤 僕たちがこの場所で畑づくりというアクションを起こせたのは、別に本職を持っていて、コストも最小限だったことが大きいと思います。

それをビジネスにして行こうと思ったら、やはり本筋のプロじゃないと難しいんだろうなと思いますね。

和田 いや、まちづくりは素人、つまりそこに住む地域の人にしかできないんですよ。プロといえども、僕らのようなよそ者では出来ない。

腰が座っていませんからね。だから腰が座っている地元の人が中から考えていく。中から考えて、外で頑張っている人をうまく呼び込む、これが大事ですよ。

坂本 確かに、以前このエリアで再開発の話しがあって、デベロッパーさんの図面を見たんですけど、そこで人が生活しているイメージが全然沸かなかったですね。
本当にこの街のことを考えて描いた図面なのかと。これを魅力に感じる街の人はいるのかな?って。

和田  僕はそういうまちづくりの仕事をして来たから分かるんだけど、いかに住宅の戸数を積めるか、自分達の都合に合った建物を建てる事しか考えてない人が多いですからね。

坂本  本当に人の暮らすイメージが全く見えなかった、その図面から。

和田 じゃあ坂本さんは、どんな街だったら魅力を感じますか?

坂本  うーん……シェアオフィスを作りたいと思っているんです。 

和田 この市場の空き店舗で働ける場所を作るということですか?

坂本  はい。今いる場所はシェアスペースで、腰をすえてビジネスができるような場所ではないので、平日の日中にデスクワークをしたい人を集めたいなと。

和田 それこそDIYでやれば安く上がりますよね。

坂本 私たちの活動拠点とインフォメーション機能も兼ねたいので、儲けはそんなに考えてなくて、賃料で初期投資とランニングコストがペイできれば……。

和田 いや、少しでも儲かるビジネスモデルにしておいた方がいいですよ。最初からトントンで考えると後がしんどくなるから。

それにビジネスとしてやらないと、身が入らないというか、マインドが「まあいいか」となってしまうので。 

坂本 なるほど。

和田 あと肝心なのは、シェアオフィスを使いたい人がいるかどうかですよね。どういう人たちがターゲットですか? 

坂本  地域に増えた新しいファミリー層の住民ですね。特に元気なママさんたちが多いので。
お絵かき教室とか色々やっているのですが、家だと子どもがいて本腰が入れられないし、個人レベルだとただの趣味に終わってしまうので、それをもう少し底上げしてやれないかと。

そうすればその人達も対価が取れるし、拠点となっている市場の活力もアップするんじゃないかって思うんです。

和田 いいと思いますよ。ターゲットが明確になれば、その人に発信すればいいだけですから。 

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この記事を書いた人

日刊ゲンダイやおとなの週末などで執筆するフリーライター・開運研究家のいからしひろき。
テレビやウェブの仕事もしています。得意なテーマは旅、歴史、酒、グルメ、健康など。

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